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MID-SEASON COLUMN

2019年シーズン前半の出来事に見る
SUPER GTタイヤの厳しき競争と使用条件

タイヤメーカー間の競争が極めて高いレベルで繰り広げられているSUPER GTシリーズ。その2019年シーズンは本稿執筆時点で全8戦のうち5戦を終え、ミシュランタイヤ装着車は実に3戦でポールポジションを獲得するという速さを見せてきています。

一方、これまでの5戦でミシュラン勢は優勝には手を届かせることができていません。ただし、レースにおける総合成績は車両性能の差違が大きく影響するもの。ミシュランがSUPER GTにおいて戦っているのはタイヤの競争であり、目を向けているのは同じマシンで異なる3メーカーのタイヤを履く4台の日産 GT-R NISMO GT500の争いで浮き彫りとなるタイヤの優劣です。

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supergt 2019 col 4

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2019年の場合、GT500クラスには4台の日産 GT-R NISMO GT500がシリーズ参戦していますが、そのうち2台(No.23 MOTUL AUTECH GT-RおよびNo.3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R)はミシュランタイヤ装着車で、もう1台(12号車)はブリヂストンタイヤ、残る1台(24号車)はヨコハマタイヤを使用しています。そして、この4台の日産 GT-R同士の競争において、予選ではシーズン前半5戦のうち4戦で、決勝レースでも5戦中3戦でミシュランタイヤ装着車が最上位を獲得しました。つまり、車両性能の差違による影響が取り除かれた競争に注目すると、2019年シーズン前半においてもミシュランタイヤが多くの場合でライバルを制する結果を残していることが確認できるわけです。

そうしたことを踏まえて今回のコラムでは、2019年シーズン前半のSUPER GTにおいて見られた気になる出来事をいくつか取り上げ、日本ミシュランタイヤの小田島広明モータースポーツダイレクターの解説のもと、それぞれについて掘り下げてご紹介していきます。

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熱対策に力を入れた鈴鹿用タイヤ

シーズン前半5戦のうち、ただ一度だけ予選でミシュランタイヤ装着車が日産 GT-R勢の最上位を逃したことがありました。それが5月の第3戦鈴鹿でした。ミシュラン勢は、No.23 MOTUL AUTECH GT-RがGT-R勢2位で予選総合10位、No.3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-RがGT-R勢3位で予選総合12位でした。この結果について小田島ダイレクターは「鈴鹿では熱対策に力を入れたタイヤを使用したため、予選での一発のタイムは出しにくかったのです」と言います。

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鈴鹿サーキットは、タイヤに高い負荷が長い時間にわたってかかるコースレイアウトで、そのうえ路面のμ(摩擦係数)が非常に高く、そしてマシンにはタイヤを路面に押し付けるダウンフォースを強くつけるセッティングを施します。つまりタイヤにとっては、かかる負荷がひときわ高く、ゴムの熱が上がりやすいサーキットが鈴鹿なのです。

「一時的には速く走ることができるタイヤであっても、その後想定より高温になったり、摩耗したりという問題が出てくるとラップタイムは落ちてしまいます。特に鈴鹿はその懸念が強いサーキットなので、チーム側と我々ミシュラン側の合意のもと、その対策に力を入れたタイヤを持ち込みました。熱が上がりにくいコンパウンドを使用しますので、予選で一発のタイムを出しにくくなることは承知の上での選択でした」(小田島ダイレクター。以下同様)

「レーシングタイヤは熱との戦いです。タイヤの熱がある程度高い方がグリップを出しやすいので、理想としてはその狙ったところで使いたい。でも、それを超えてしまうと、コンパウンドがオーバーヒートして温度の適正値を超えてしまいます。また、熱を持ちやすい仕様のタイヤにしたとしても、路面温度と合わないと今度はピックアップ(路面に落ちているタイヤのゴムかすが装着タイヤのトレッド面に貼り付いてグリップ力の大幅な低下を招く現象)という問題が出てきてしまいます。出場全車が同じタイヤを使うワンメイクのレースであればタイヤをそこまで追い込んで使うことはないのですが、SUPER GTはタイヤ競争をやっているレースですから、いずれにせよ限界ギリギリのところで使わなければなりません。そんな具合ですので適切な温度管理をしつつ、摩耗やピックアップといった問題に常に突き当たりながら取り組み続けるのがSUPER GTタイヤの開発、という感じです」

0.01bar単位で4輪を別個に行うタイヤ内圧調整

第3戦鈴鹿では決勝レース中にNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rの右フロントタイヤがバーストするという出来事がありました。原因のひとつは、外的な要因による損傷があったことでした。また、タイヤが温まって作動領域に入ったところでの内圧(空気圧)が、ミシュランが事前の試験結果を踏まえて設定していた下限値にこのときはわずかながらも届いておらず、そのことがタイヤトラブル発生の確率を上げた可能性も考慮しなくてはならない状況でした。

SUPER GTではタイヤウォーマーの使用が禁じられています。そのため、いくらかでもタイヤの温度を事前に高めておくべく各チームは使用前のタイヤをピット裏などに並べて天日に当てていますが、それでも気温より10℃ほど余計に温められるかどうかというところです。それでいて、走行時に所期の性能を発揮できるようになったとき(温間時)のタイヤの温度は80℃~100℃+αに達します。そのため、走行前でタイヤが冷えているとき(冷間時)に比べ、温間時のタイヤの内圧は1.5倍近くに跳ね上がることになります。

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走行中にタイヤの内圧をアジャストする機構もSUPER GTでは使用することができません。したがって、タイヤの内圧調整は走行前のピットやスターティンググリッド上で行います。タイヤの温度が倍以上に上がり、内圧は50%近くも高いものになったときに適切な値となるようにする調整を、タイヤがまだ冷えていて内圧も低い状態のときに行わなければならないわけです。

しかも、内圧の設定値は前後左右の4輪すべてで微妙に異なります。現在のSUPER GTの出場車両は全車種が後輪駆動で、駆動力がかかる後輪とそれがかからない前輪とでは受け持つ負荷が大違いであることに加え、どのサーキットでも左コーナーの数と右コーナーの数は同じでなく、各コーナーの曲率もまちまちであるため、タイヤに負荷がかかる度合いはマシンの左側と右側とでは異なるからです。

そして、レーシングタイヤの内圧調整は0.01bar単位で行っています。通常の乗用車では、タイヤの内圧が0.1bar変わってもその変化を感じることは簡単ではありませんが、レーシングタイヤで仮に内圧が0.1bar違えばそのパフォーマンスやフィーリングは大きく変わってしまいます。ドライバーは「まったくグリップしない」とさえコメントしてきます。そこで我々のタイヤエンジニアは、タイヤが発熱して作動領域に入ったときに適切な内圧にまで上がるよう、前後左右の4輪個々に0.01bar単位での調整指示を走行前に行うのです。

走行前の冷間時におけるタイヤの内圧調整は、そのときの走行条件では温間時にはどのくらいまで内圧が上がるかという過去のデータに基づいた計算値に則って行います。しかし、今回の鈴鹿のレースウィークの気温はその時期としてはやや低めで、そのためタイヤの内圧の上昇が計算値をやや下回ることになりました。また、内圧が低くなり路面との接地面積が大きくなるほどタイヤのパフォーマンスは上がることから、チームとしてはギリギリまで内圧を低くして使いたいという思いをそもそも持っています。

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ちなみに、同じレースでNo.23 MOTUL AUTECH GT-Rと同じ仕様のタイヤを履いたNo.3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rの右フロントタイヤはNo.23 GT-Rと同様に内圧が低い状態でしたが、まったく問題を起こしませんでした。そればかりか、スティントの後半には非常に速いラップタイムを繰り返し刻んでパフォーマンスの高さを示しました。このあたりにもレーシングタイヤ、特にSUPER GT用タイヤのシビアさが表れていると言えるでしょう。

ハンディウェイトが違っても同じタイヤを履いた理由と影響

第4戦タイと第5戦富士。この2戦における予選と決勝レースのすべてのスティントにおいてNo.23 MOTUL AUTECH GT-RとNo.3 CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rはどちらも同じ仕様のタイヤを使用しました。ただし、両レースにおけるNo.23 GT-Rの搭載ハンディウェイト(重り)は49kgであったのに対して、No.3 GT-Rのそれは第4戦タイでは22kg、第5戦富士では32kgと大きく下回るものでした。

「同じマシンで、搭載ウェイトがたとえば30kg異なり、その上で同じ仕様のタイヤを履けば、そのパフォーマンスの出方やフィーリングには当然違いが出ます。しかし、それでも同じタイヤを選んだということは、そのタイヤでレースを戦った方が総合的には良いという判断をそれぞれのチームがしたということです」と小田島ダイレクターは説明します。

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現在のGT500マシンの最低重量は1020kgですが、走行時のタイヤには車重に加えてダウンフォースによる荷重がかかってきます。一方、現在のSUPER GTのウェイトハンディ制度では、GT500マシンに実際に搭載するウェイトの最大重量は50kgとされています(※注:ハンディが50kgを超える場合は燃料流量リストリクターによってエンジン出力に抑制がかけられます)。つまり、仮に50kgのハンディウェイトを搭載するとしても、その重量は車重の5%に満たないわけで、その程度の重量の増加は十分に許容する強度をミシュランはSUPER GT用レーシングタイヤに与えています。

「車重の5%未満の重量の違いですが、しかし無視することはできません。車重が10kgも変わってくれば0.1秒単位でラップタイムに影響を与えますし、何よりタイヤのフィーリングの違いに影響してくるからです。ただし、それで安全上の問題が出てくるということはなく、そのために仕様の異なるタイヤに変えなければならないというほどのことでもありません。言い換えれば、その程度の変化には十分対応できる幅の広さを持たせたタイヤにしています。普通の乗用車でも、乗員が5名になって荷物も満載することになると乗り味は大きく変わりますが、だからといって強度がさらに高いタイヤにわざわざ換えることがないのと同じことです」

ハンディウェイトの増加はタイヤのライフにも影響を与えます。

「SUPER GTタイヤの場合、たとえば300kmレース用で、レース中にタイヤ交換を一度行うことを前提としたケースですと、大ざっぱに言って250km程度のライフを持たせてタイヤを作っています。予選で使い、そして決勝レースの前半スティントもこなしてまだ余裕がある、というくらいのライフですね。それが、ハンディウェイトが重い状態となり、タイヤの摩耗が厳しいコースであるといった条件がさらに重なると、30kmや50kmというレベルでライフが短くなってしまうこともあり得ます。これもまた、SUPER GTタイヤの使われ方がそれだけシビアであることを表す話です。ただし、タイヤのライフが想定より10%や20%も短くなることがレース本番になってから明らかになっているようでは戦えませんので、実際にはシミュレーションや台上試験、そして実走テストにおける連続走行などを通しての様々な確認を事前に行い、その上でレースウィークには戦略上使えることを確認できたタイヤを持ち込んでいます」

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