エピキュールの旅「鯖街道」編

Epicures(エピキュール)とは美食家、食道楽を意味することば。ギリシャの快楽を探求していた哲学者、エピクロスを語源とします。
食の快を探求するため、日本の名産品、特産品の産地へ訪れ、その食文化を学ぶ旅。ミシュランガイドを片手に、いざ食道楽ドライブ!


京は遠(とお)ても十八里——。

これは若狭(現在の福井県)から京都までの道のりを指す言葉です。若狭は朝廷に食料を献上する御食国(みつけくに)の一つでした。なかでも福井県の小浜と京都の左京区出町柳を結ぶ若狭街道は水揚げされた魚を京の都へ運ぶ道として知られています。この道は、運ばれた魚からいつしか「鯖街道」と名付けられました。

 鉄道や自動車が普及する以前、若狭湾で獲れた鯖などの魚介類は行商人が新鮮な鯖などの魚に塩を振り、夜通し歩き、京都に届けていましたが、そのころにはちょうどよい味になっていたといわれています。塩を振っておけば傷みを抑え旨味成分が強調されるので、理にかなっています。

 では、この鯖街道、現在はどのようになっているのか? 詳しく見てみると、小浜から国道27号線を走り、国道303号線で上中町熊川を経て、国道367号線に入り、今津町保坂から滋賀県朽木村を通り出町柳へ行くルートとなるようです。約70km程度の道のりでしょうか。
 今回はそんな「鯖街道」を車で走りながら、歴史と食を知る旅へ、そしてその運ばれた鯖が、京都でどのように料理されたのかを食べに……いや調査しに行きます。

MEM鯖街道 冒頭画像1

MEM鯖街道 冒頭画像1

日本ミシュランタイヤ

「ミシュランガイド京都・大阪+鳥取2019」を助手席において、京都市内へいざ! ※福井県および京都市外の情報は掲載されていません

MEM鯖街道 冒頭画像2

MEM鯖街道 冒頭画像2

まずは小浜湾の湾沿いを楽しめる海岸通りを走る。海沿いに小浜公園があり、車をとめて散歩もできる

MEM鯖街道 イラストマップ

MEM鯖街道 イラストマップ

※「ミシュランガイド」掲載飲食店/宿泊施設(赤字)と外国人観光ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」掲載地(緑字)が全てイラスト上に記載されているわけではありません。

スタート地点の小浜は古代から江戸時代後期にかけて日本海側の重要な港として栄えました。鯖に限らず、若狭湾(小浜湾も若狭湾の支湾の一つ)の食材を京都に運ぶ起点ともいえます。小浜には町家やお寺、土蔵が残っています。江戸時代の地割が今も残り、明治、大正、昭和にかけての建物群が小浜西組と呼ばれる城下町に現存していたりもします。周辺をじっくりドライブするのも楽しいでしょう。

mem sabakaido plate

mem sabakaido plate

鯖街道の起点は「いずみ町商店街」に鯖街道起点のプレートとして埋められている。このあたりは1601年には魚専門の町として存在していたよう

 小浜から国道27号線の道のりは、現在の港町としてそして生活の中心としてスーパーなどが見受けられますが、徐々に旧街道の雰囲気がでてきます。そこでまず寄り道したいのが「瓜割の滝」。国道303号線へ入る手前にあります。その名の由来は水温が冷たくその冷たさで瓜が自然に割れたという故事から来ているといいます。

 滝周辺は朝廷の雨乞いを司る祈祷所だったとも。名水百選にも選ばれ、今も京都から汲みにくる人もいるのだとか。滝近くでは、この名水で煎れたコーヒーを地元の方が提供しているので、さっそく買って車へ戻ります。

MEM鯖街道 滝

MEM鯖街道 滝

取材は秋真っ盛りの10月。木漏れ日の中、岩には苔が群生し、幻想的な風景の瓜割の滝。水中には紅藻植物が繁殖していて石が赤く染まっている。近年はパワースポットとしても有名だとか

MEM鯖街道 水車小屋

MEM鯖街道 水車小屋

瓜割の滝は岩狭瓜破名水公園の中にある。公園の入口付近には水車小屋も。公園内には天徳寺というお寺もあり、軽く散策するのも心地よい

 国道303号線に入ると、町並みの雰囲気は消え、山間の道となります。すぐに右手に見えてくるのが熊川です。1589年に若狭国主の浅野長政がこの町を街道の宿場として整備して以後、繁栄を続け、現在は国の重要伝統的建造物群保存地区(文化財保護法に基づき市町村の申請に応じて文部科学大臣が選定)に。約1.4kmの旧街道沿いに町家造りの民家が軒を並べています。

 小浜側からだと手前に駐車場がありそこから下ノ町(しもんちょ)、「まがり」と呼ばれる敵の突進を防ぐために作られた曲がり角を経て、中ノ町(なかんちょ)、上ノ町(かみんちょ)となっています。
 ここ熊川の名物は葛です。吉野葛、秋月葛と並んで熊川葛は日本三大葛の一つ。北川上流に自生する葛根を清流にさらしてつくられる葛粉は11月〜3月の寒い時期に行われます。

MEM鯖街道 景色

MEM鯖街道 景色

約1.4kmの旧街道沿いに町家造りの民家が軒を並べる熊川の景色。小浜側から京都方面に向け、下ノ町(しもんちょ)、中ノ町(なかんちょ)、上ノ町(かみんちょ)と続く

MEM鯖街道 宿

MEM鯖街道 宿

浅野長政が街道の宿場町として整備し、今も歴史ある宿が残る。現在は国の重要伝統的建造物群保存地区になっている

 風情ある熊川宿の古い町並みを楽しんだら京都へ向かいましょう。山間の道ではありますが、道路自体は整備されており快適に走れます。ただし、この周辺は積雪地帯で、整備には気をつけておきたいところ。今回は、スタッドレスのMICHELIN X-ICE XI3を装備。氷上でのブレーキ性能も高く、走りにくい雪道やシャーベット路面にも効く高性能タイヤです。

 今回はまだ雪道ではありませんでしたが、このタイヤはスタッドレスにありがちなぐにゃっとした頼りなさを感じさせず、安定感のある走りすることができました、さらに、スタッドレス特有のパターンノイズも少なく感じました。これは、溝の形状を変えて縦穴を配置した「サイレントアイ」で空気の流れから発生するノイズを低減しているのだとか。

 熊川を過ぎて国道367号線に入ると、朝倉攻めの信長軍の退路となった場所として知られる朽木へ。ここには、日帰り温泉や道の駅などもあります。朽木を過ぎれば、しばらくまた山間を走ることになるので、休憩するならここがポイント。

 さらに車を京都に走らせると安曇川上流の葛川があり、初夏から夏にかけては釣り人やファミリーで賑わいます。その先には「鯖街道随一の難所」といわれた花折峠。この難所を越えた先に、三千院があります。
 三千院は天台宗の寺院で、かつての貴族や仏教修行者の隠棲の地としても知られる大原の里に位置します。この大原、炭竃の煙たなびく風景が多くの王朝歌人に詠われ、歌枕にもなっているので聞いたことがある方もいるのでは?

 高野川を横に国道367号線を進むと京都中心部から約10kmのあたり、京都市北東部の山間に位置する八瀬につきます。比叡山麓に拡がる八瀬からは、紅葉トンネルで知られる叡山ケーブルカーで比叡山へ行くことも。旧街道の風情はこのあたりまででしょうか。
 若狭を出て京を目指した一塩物の魚は、このあたりにたどりつくと、時間が経ち旨味が出て食べ頃になっていたとか。都の通人たちの中には、このあたりで鯖やグジ(甘鯛)などを待ち構えていたとも言われています。

 鯖売りたちに運ばれてきた鯖をもとに生み出されたのが京料理、鯖寿司です。京都の家庭では祭りなどのハレの日に鯖寿司がつくられてきました。この鯖寿司の専門店として京都でも知られるのが1781年創業の「いづう」です。「ミシュランガイド京都・大阪+鳥取2019」ではビブグルマンとして初掲載されました。家庭の味であった鯖寿司を料理人として初めて世に送り出したのが創業者初代いづみや卯兵衛で、その名が屋号に使われています。
「創業から現在にいたるまで、お茶屋様にご愛顧いただき、私どもが仕出しの器に色絵の古伊万里などをご用意しているのはお座敷の格を考えてのことです」

 そう話すのは、いづうの8代目当主、佐々木勝悟氏。当初仕出し中心だったいづうですが、1970年ごろ6代目当主の代でお店の前に腰掛けてお寿司をつまんでもらいたいと、席を設けたとか。
「一般的に寿司屋は店先で食べさせない、仕出しが当たり前だった時代です。その御法度を破ってお店を構えた。時代にあわせて、経営方針や味も変えていくことが、伝統を守ることにつながるのではないでしょうか」
 いづうの鯖姿寿司は日本近海の脂ののった真鯖を使い、米は滋賀県産の江州米、くるむ昆布は北海道産です。ご飯はお酢と混ぜてから一晩自然に冷まし、寝かす。普通ならすぐに混ぜて使うところを、そうしない。そうすることで、合わせ酢の味が染みていく。
 お米同様、鯖も寝かしますが、その際は氷蔵箱(冷媒を使わず氷で冷やす昔ながらの冷蔵手段)を今でも使っているそう。
「氷蔵箱は氷だけ。保湿しながら冷やすことができます。温度は13度〜15度。普通の冷蔵庫では味がこれほどまでになじまないのです」
 鯖姿寿司に巻かれる昆布は、他の昆布と比べても繊維質が柔らかい特性からダシを引いた後も、塩昆布や煮昆布としておいしく食べられる昆布。昆布の成分が鯖とご飯へ移り、時間とともに風味が変わっていきます。
「普段からお買い上げになる方の中には、ご家族の中でつくりたてのものがお好きな方、10時間以上経った後の早熟れ寿司特有の風味がお好きな方などがいらっしゃって、その時々で食べられるようです」
 日本人の食のこだわりは、とどまることを知らないですね。そんな古来から愛されてきた鯖、そして鯖寿司を楽しむドライブにあなたも出かけてみませんか? もしかしたら、鯖売りの幻影を見ることができるかもしれません。
 江戸時代中期の俳人、画家で京都に居を構えていた与謝蕪村はこの鯖を背負った人たちを見ていたのでしょう、安永5年(1776年)次のように詠んでいます。

 夏山や 通ひなれたる 若狭人

MEM鯖街道 石碑

MEM鯖街道 石碑

京都の賀茂川にかかる出町橋の西の袂には鯖街道口の石碑がある。出町桝形商店街の入り口付近にも鯖街道の表示板がある

 

MEM鯖街道 鯖姿寿司1

MEM鯖街道 鯖姿寿司1

いづうの鯖姿寿司は横からみると酢飯の部分がうさぎのシルエットになっている。これは創業者いづみや卯兵衛の「卯」からとったもの

MEM鯖街道 鯖姿寿司2-1

MEM鯖街道 鯖姿寿司2-1

いづうの鯖姿寿司は掛け紙と包装紙にもこだわりが。包装紙は創業者いづみや卯兵衛の名にちなんだうさぎと、日本一への心意気を富士山と三保の松原であらわしている。掛け紙には季節感にちなんだものが木版画で描かれており、秋の紅葉から雪まで全6種

MEM鯖街道 鯖姿寿司2-2

MEM鯖街道 鯖姿寿司2-2

時間とともに風味が変わるのも大きな特徴。すぐに食べても美味しいが、10時間以上経った後の早蒸れ寿司特有の風味も堪らない。おすすめシーズンはお花見や紅葉の季節だそう

MEM鯖街道 佐々木勝悟氏

MEM鯖街道 佐々木勝悟氏

左:いづう8代目当主の佐々木勝悟氏。郷土寿司の研究もされており、取材時には、なれ寿司の話に花が咲く
右:入り口でも、兎がお出迎え

MEM鯖街道 いづう

MEM鯖街道 いづう

いづう
「ミシュランガイド京都・大阪+鳥取2019」に、ビブグルマン*として初の掲載

住所:京都府京都市東山区八坂新地清本町367
TEL:075-561-0751
営業時間:予約不可※お持ち帰りのご予約は承っております。
[月〜土]11:00~22:00(L.O.21:30)
[日・祝]11:00~21:00(L.O.20:30)
日曜営業
定休日:火曜日 (祝日や祭事等の際は営業)
Web:公式サイト http://izuu.jp/

*ビブグルマン:価格以上の満足感が得られる料理。良質な食材で丁寧にしあげており、5,000円以下で楽しめる。

2019年2月7日掲載

※掲載内容は取材時の情報です。(取材日:2018年10月22日)
※グリーンガイドの情報は『グリーン・ガイド・ジャポン改訂第4版』のものです。
※飲食店/宿泊施設は取材時にミシュランガイド公式リストbyクラブミシュランに掲載されている情報です。(ミシュランガイド公式リストbyクラブミシュランは、ミシュランガイドに掲載されている最新の飲食店/宿泊施設を閲覧できる公式ウェブサイトです。)

フォトギャラリー

MEM鯖街道 中村

MEM鯖街道 中村

中村祐介 Yusuke NAKAMURA

編集者、ジャーナリスト、フォトグラファー
食生活ジャーナリストの会所属
一般社団法人おにぎり協会代表理事
一般社団法人日本編集部代表理事
株式会社エヌプラス代表取締役

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