WECとは
四輪車による耐久レースの世界選手権シリーズです。トップカテゴリーの出場全車がミシュランタイヤを使用しています。使えるタイヤの本数が厳しく制限されており、大きな負荷がかかり続ける条件下でも長い距離を高いパフォーマンスで安定的に走れる能力がタイヤには求められます。
世界最高峰の耐久レースシリーズ
WEC(FIA世界耐久選手権)では、短くて6時間、最長では24時間におよぶ長さのレースが各大会で開催され、その途中では、ドライバー交替、燃料補給、そしてタイヤ交換が繰り返し行われます。出場する各車両はドライバーを3名まで登録でき、彼らは交替でマシンに乗り込んでレースを戦います。
2024年シーズンのWECにはハイパーカークラスとLMGT3クラスの2つが設けられており、レースでは両出場全車が一斉に走行しながら各クラスの順位を争います。
・ハイパーカークラス
WECの最上位クラスで、プロトタイプスポーツカーという種類のレーシングカーによって争われています。
ハイパーカークラスには、「LMH」と「LMDh」という2種類のプロトタイプスポーツカーが出場しています。もっとも、LMHとLMDhの車体やパワーユニットの成り立ち、性能条件は、ほぼ同様です。LMDhでは、車体は認定された4つの製造者のものを、MGU(モーター・ジェネレーター・ユニット)やバッテリーはLMDh全車が同じものを使用します。つまり、LMDhにおける車両技術の競争は、エンジンとボディワークの開発、そして各種セッティングといった領域に限られています。一方、LMHは、車体もパワーユニットも、マシンのコンストラクターが独自に開発/調達したものを使用できます。
技術開発の自由度が異なるLMHとLMDhですが、WECにおいては両者が互角に戦うことが目指されています。そのため、各マシンのパフォーマンスに大きな違いが出ないようにする性能調整措置が、WECの競技運営側の任意の判断によって講じられています。
このハイパーカークラスでは、タイヤサプライヤーは1社に限定されています。その重要な役割を務めているのはミシュランで、WECのトップカテゴリーに出場するすべてのマシンに専用のミシュランレーシングタイヤをシーズンを通じて供給しています。
・温室効果ガス排出量を大幅に削減した公式燃料を使用
WECでは、植物由来の成分を多く含有した、いわゆるバイオ燃料を公式燃料としており、出場全車が使用しています。このバイオ燃料は、ワイン用のぶどうの搾りかすから作られるバイオエタノールを主成分としたもので、従来の鉱物製燃料に対して、温室効果ガスの排出量が65%以上も少なくなっています。
2024年シーズン WEC ミシュランレーシングタイヤ
・ハイパーカークラス用タイヤ
ミシュランは、WECのトップカテゴリーにおける唯一の公式タイヤサプライヤーとして、このハイパーカークラスに出場する全車にタイヤ供給を行っています。2024年シーズンのハイパーカークラスには9種類の車両が出場しますが、パワーユニットの形態はまさに9車9様です。ミシュランは、それらのマシンの特性に対してそれぞれ最適化を図った専用のレーシングタイヤを供給しています。
ミシュランは、このハイパーカークラス用レーシングタイヤの開発作業のすべてを、コンピュータやシミュレータなどのデジタルツールのみを用いて遂行しました。実際のタイヤを実車に装着してのテストは一切行うことなく、高度な要求性能を極めて低い環境負荷で実現させた、ミシュランならではのレーシングタイヤとしています。
ハイパーカークラスでは、公式タイヤサプライヤーがシーズン中に用意できるドライコンディション用タイヤは3種類、ウェットコンディション用タイヤは1種類に制限されています。ドライ用タイヤについては、ル・マン24時間では3種類すべてを使用することが許されますが、他のレースでは2種類までとなります。
なお、WECでは、2022年シーズンまではタイヤウォーマーの使用が認められていましたが、2023年シーズンから使用禁止となりました。これに対応してミシュランは、ハイパーカークラス用タイヤのコンパウンドを一新。持ち前のグリップ性能と耐久性能の高さを損なうことなく、グリップ性能を存分に発揮できる温度に一段と早く到達する能力を備えたタイヤとしています。
・サイドウォールのマーキングで識別できるタイヤの種類
ミシュランはハイパーカークラス用レーシングタイヤのサイドウォールに、種類に応じて色分けしたマーキングを施し、コースの外からでも各車が装着しているタイヤの種類を識別できるようにしています。
【ドライコンディション用スリックタイヤ】
ホワイト:ソフトコンパウンド
イエロー:ミディアムコンパウンド
レッド:ハードコンパウンド
【ウェットコンディション用レインタイヤ】
ブルー
【タイヤサイズ】
■フロントタイヤ:29/71-18 ■リアタイヤ:34/71-18
(※ミシュランレーシングタイヤのサイズ表記はタイヤ幅 [cm]/タイヤ外径 [cm] −リム径 [インチ] )
(※ドライ用タイヤとウェット用タイヤの双方のサイズに違いはありません)
2024年シーズン WECのタイヤ使用基本ルール
WECでは、各大会におけるドライコンディション用タイヤの使用本数の上限が、下記のとおりに定められています。
(※ル・マン24時間におけるタイヤの使用本数の上限は、別途設定されます)
【6時間レースの場合】
■フリープラクティス用:12本 ■ハイパーポール用:4本 ■予選+決勝レース用:18本
【8時間レースの場合】
■フリープラクティス用:12本 ■ハイパーポール用:4本 ■予選+決勝レース用:26本
ウェットコンディション用タイヤについては、クラスやレース時間を問わず、使用本数の上限はありません。
環境負荷を低減するため、WECでは、ひとつの大会において使用できるタイヤの本数の上限を段階的に引き下げてきました。そして現在の上限は、決勝レースにおいては1セットのタイヤで2スティント以上をこなす必要があるものとなっています。走行条件に対して、使えるタイヤの本数の制限が厳しく、大きな負荷がかかり続ける条件下でも長い距離を高いパフォーマンスで安定的に走れる能力がタイヤには求められます。
WECにおけるタイヤへの関心はそのライフの長さに集まりがちですが、そもそものグリップ性能が高くなければ話になりません。高いグリップ性能と、その性能をライフの最後まで安定的に発揮し続ける能力の双方が求められるわけで、「Performance Made to Last」の理念を掲げるミシュランにとってWECは、技術を磨くのに格好のモータースポーツシリーズとなっています。
2024年シーズン WECの見どころ
全8戦で争われる2024年シーズンのWECですが、この選手権を代表するハイパーカークラスには計19台もの車両がシリーズ参戦します。2012年にスタートしたWECですが、そのトップカテゴリーにこれほど多くの車両が毎戦出場したことはなく、名実ともに史上最大のシーズンとなります。
ハイパーカーの車種は9種類におよびます。昨シーズンにはフェラーリが約50年ぶりにプロトタイプスポーツカーレースに復帰してきたほか、耐久レース界の盟主であるポルシェも復活。さらに、アメリカからゼネラルモーターズがキャデラックのブランドで乗り込んできましたが、これらのニューカマーを、ディフェンディングチャンピオンであるトヨタと、2022年から耐久レース活動を再開したプジョーが迎え撃ちました。
そして今シーズンは、前出のフェラーリ、ポルシェ、キャデラック、トヨタ、プジョーに加え、フランスのアルピーヌが新型マシンで世界耐久のトップカテゴリーに復活するほか、ドイツのBMWとイタリアのランボルギーニというビッグネームが新規参戦。イタリアの高級車ブランドのイゾッタ・フラスキーニもオリジナルのLMHマシンを開発して挑戦してきています。
これら9つの自動車メーカーが威信をかけて送り込むマシンのすべてが、ミシュランタイヤを使用して全8戦の世界選手権シリーズを戦います。