サウナ&ターフの聖地を巡る
非日常のグランドツーリングへ
【vol.03 佐田岬~大分~宮崎~熊本編】
メインエンジンが起動するとともに煙突から黒煙が吹き出し、さっきまでいた陸地をゆっくりと離れていく。フェリーの航跡が映し出された海は、太陽の光を浴びて青と白とエメラルドグリーンに輝き、甲板で浴びる風は、さっきまでよりも不思議と心地よく感じる。
四国と九州をわずか70分で結ぶ「国道九四フェリー」は、じわじわと押し寄せる高揚感や日常では味わえない爽快感をくれた。甲板で出会う人々の表情は一様に穏やかで、サウナ後の水風呂でよく見かける情景を連想させる。また、同じ船に乗り合わせたという仲間意識なのか、自然と声を掛け合うような雰囲気が生まれていたことも印象的だった。
フェリーから見渡せる風景や今の気持ちを、家族や友人たちとも共有したい。ふと湧き上がった衝動に、SNSのアプリを立ち上げた。
移りゆく景色や夏らしい入道雲、水中をふわふわと漂うクラゲなどを眺めていると、あっという間に着岸の時が訪れていた。プジョーとの旅は、いよいよ九州へと舞台を変える。
チケット売り場に車検証を持ち込み、クルマの長さに応じた料金を支払う。「国道九四フェリー」は悪天候時などを除き、愛媛・三崎港⇔大分・佐賀関港を1日16往復、朝7時台から夜23時台まで毎時運行している。
三崎港へ向かう道すがらの魚市場で朝ごはん。採れたての海の幸をさらっと盛り付けた「まかない丼(600円)」に大満足だ。
メジャー通算8勝を誇るレジェンドの名を冠した「トム・ワトソンゴルフコース」は、あるがままの自然を残したいというトム・ワトソン氏の思想をベースに、緑豊かな黒松林を活かした美しくも戦略的なコースレイアウトを特徴としている。今回は関連施設である「フェニックスゴルフアカデミー」を拠点にした、ラウンドレッスンを含む3日間のゴルフ合宿に参加した。
ゴルフとは、勘違いや思い込みに上達を阻まれやすいスポーツだ。とくにYouTubeやSNSなど、スキルアップに関する情報が溢れかえっている現代は、多くのアマチュアゴルファーの上達を後押しする一方で、混迷をますます深めることにもなりかねない。
スコアアップを目指すには、理にかなったスイングや状況判断、コースマネジメントなど、“今の自分に必要な情報”の取捨選択と実践が重要になってくる。
筆者は目指すべきスイングの指針をやや見失っていた状態だったが、まさに目から鱗、この3日間ですっかり視界が開けた。世界最先端のメソッドを持つインストラクターの的確な分析と指導、それをすぐさま実践できる充実した練習環境は、上達を願うすべてのアマチュアゴルファーにとってのパラダイスだ。
そして、「成功の確率を上げたければ、失敗の数を倍にすることだ」というトム・ワトソン氏の名言は、たとえ失敗を繰り返したとしても、諦めずにチャレンジし続けることの尊さを教えてくれる。
太陽と海のリゾートホテル「シェラトン・グランデ・オーシャンリゾート」は、もちろん全室オーシャンビュー。雄大な太平洋から昇る朝日や色鮮やかな海、美しい緑の芝が浮かび上がる「トム・ワトソンゴルフコース」など、非日常的な眺望は心をときめかせてくれる。
今年で30周年を迎えた「トム・ワトソンゴルフコース」では、ホシゾラ★ゴルフ(ナイターゴルフ)も楽しめる。幻想的な空間でリゾートゴルフを満喫しつつ、スイングの肝のひとつである“上半身の適度な脱力”を身に付けたい。
朝から晩までゴルフに没頭した3日間を終え、九州を代表するサウナの聖地「湯らっくす」へとプジョーを走らせる。悲鳴を上げるというほどではないけれど、足腰にはガッツリとした張りと重さを感じる。
熊本の「湯らっくす」は、サウナや天然温泉の醍醐味に加え、人々の温かさを感じることができるエンターテイメントサウナだ。蒸気もくもくの大噴火瞑想サウナ「大阿蘇」を含む3種のサウナや水深171cmの水風呂(男湯)をはじめ、世界的にも希少な“水道水がミネラルウォーター”といった恵まれた泉源、スローフードを取り入れたサ飯など、すべてのクオリティが高い。
そして、1日26回のアウフグース(熱波師によるサウナイベント)を実施するクラシックサウナでは、心地よい発汗とともに、ライブハウスのような一体感を味わえる。アウフグースの時間が近づくと、次々に男たちがクラシックサウナへ吸い込まれていき、地元の大学生と思わしき熱波師が入場すると、一同拍手で出迎えだ。
サウナストーンにアロマ水をかけ、曲に合わせたタオルパフォーマンスが始まると、どこからともなく手拍子が始まる。熱波師が軽やかに舞うごとに、カラダ中が熱い蒸気に包まれる。その刹那、顔がほころんでいくのが自分でも分かる。アウフグースは、毎日12時から翌1時まで実施。水風呂にドボンと浸かった時には、早くも次の“ライブ”が楽しみになっていた。
日本一の深さを誇る水風呂は、「湯らっくす」のハイライトのひとつ。柱に備わる「MAD MAX(マッドマックス)」ボタンを押すと、凄まじい勢いで天然水が流れ落ちてくる。ロープにぶら下がったり、手すりにつかまったりしながら、頭が真っ白になる瞬間を楽しみたい。
館内各所には、個性豊かな熱波師の出演時間を記した「アウフグース表」が張り出される。お気に入りの熱波師を見つけるのも、楽しみ方のひとつになるだろう。
東京を出発してから8日目。SNSでつながりを保てる昨今ではあるけれど、さすがに家族や愛犬、家のごはん、友人たちのことが恋しくなってくる。妄想を現実のものとしたグランドツーリングは、まだ折り返し地点を少し過ぎたところだが、ひとまず中締めといきたい。
まず感じたのは、日常から距離を置いた“非日常”の旅は、トキメキやワクワクといったプラスの感情を呼び起こしながら、人生における視野を広げてくれるものだということだ。知らない土地の空気を吸い、異なるイントネーションを耳にし、自分とはまったく違う人生を歩んできた人たちと触れ合っていると、人生はそれぞれが自由にデザインしていくものだと改めて実感させてくれる。
その一方で、家族や仲間、ビジネスパートナーたちと過ごす“日常”は、忙しい日々に紛れて普段は忘れがちだけれど、なんと恵まれていて、なんと幸せなのだろうかと身にしみる。
また、いつかやりたいと思っていることは、先送りすることなく、できるだけ早いタイミングで実行に移すべきだと感じた。思い立ったが吉日、という言葉もある。もちろんそれは、特別に大それたことではなくてもいい。たとえば、親孝行や身近な人々へ感謝の想いを伝えることは、すぐにでもやるべきことだろう。
予測不能な時代と言われて久しいけれど、そもそも先のことは誰にも分からない。もちろん、過去を変えることもできない。けれども、今この瞬間を楽しむことや、これから進んでいこうとする道は、自分で決められる。旅も人生も道半ば。心の中は、部屋の空気を入れ替えた時のような、清々しさに満ちあふれている。
沖縄周辺で停滞していた台風6号の影響を受け、ドライからヘビーウェットまで、急激に変化する路面コンディションの中を走る時間帯があった。そんな中でも「MICHELIN PRIMACY 4+(ミシュラン プライマシー フォープラス)」は、変わらぬ安心感を届けてくれた。
タイヤを選ぶときにかける情熱は、クルマを買い替えるときほどではないかもしれない。けれども、タイヤを変えれば、愛車の走りやカーライフは大きく変わる。それもまた、紛れもない事実だ。
【vol.01 東京~箱根~静岡~琵琶湖編】を読む
【vol.02 神戸~瀬戸大橋~今治編】を読む
この区間の走行距離は851kmで、メーター表示の燃費は18.5km/L。愛車の「プジョー 308SW」と駆けぬけたグランドツーリングの総走行距離は、2,112kmを刻んでいた。同じフランスをルーツとする「MICHELIN PRIMACY 4+」との相性も上々で、様々な路面コンディションに対応しながら、ドライビングの楽しさや奥深さを堪能させてくれた。これからも共に、色々な景色を見ることになりそうだ。
2024年2月9日掲載(取材日:2023年8月3日~8月6日)
※掲載内容は取材時の情報です
企画構成・文・写真/のぐち まさひろ
取材協力/国道九四フェリー(https://www.koku94.jp/)、シェラトン・グランデ・オーシャンリゾート(https://seagaia.co.jp/hotel/sgor)、トム・ワトソンゴルフコース(https://seagaia.co.jp/twgc)、湯らっくす(https://www.yulax.info/)