サウナ&ターフの聖地を巡る
非日常のグランドツーリングへ
【vol.01 東京~箱根~静岡~琵琶湖編】
旅は、人を成長させるものだ。それは、様々な経験を重ねた人であっても同様だろう。とくに一人旅の場合は、見知らぬ人とコミュニケーションを取る機会も自然と増え、色々な価値観や人生に触れることができる。そうした時間が、気付かないうちに囚われていたかもしれない固定観念や人生観に、新たな風を吹かせてくれる。
今回の旅では、乗り慣れた愛車のプジョー308SWに、真新しい「MICHELIN PRIMACY 4+(ミシュラン プライマシー フォープラス)」を履かせてみた。シリーズを代表するウェット路面でのブレーキング性能、高速での安定性、静粛性といった美点が、次に履き替えるタイミングまで“長く続く”このタイヤは、履き始めから驚くほどにすっと馴染み、快適なロングドライブを予感させてくれた。
首都高を軽やかに駆けぬけ、東名高速へ。本来であれば、そのまま東名高速を西へと走り続けるのだが、今回は厚木ICから箱根ターンパイク方面へ進路を変えた。その理由は、ミシュランらしい滑らかな走行フィールや高速での安定感、巧みな“いなし”の先にある、スポーティなポテンシャルを確かめてみたくなったからだ。こうして気分が赴くままに進路変更できるのも、一人旅ならではの醍醐味だろう。
箱根ターンパイクから芦ノ湖スカイライン、さらに足を延ばして伊豆スカイラインへ。関東屈指の絶景ワインディングロードでは、青い空や木々のグリーンに癒されながら、清々しい走りを楽しむことができた。悠然とたたずむ富士山に旅の安全を祈願しながら、サウナ好きなら知らぬ者はいない聖地へと向かう。
MICHELIN PRIMACY 4+の特徴のひとつは、「サイレント・リブテクノロジー」による静粛性の高さ。道中では、70年代後半から80年代に流行したシティポップを口ずさみながら、ご機嫌なドライブを楽しむことができた。
曲率の異なるコーナーが連続するワインディングでは、愛車との会話がより濃密に。足元のMICHELIN PRIMACY 4+はすでに、履き慣れたスニーカーのように馴染んでいる。
数々のメディアでたびたび紹介され、全国のサウナ好きから“一生に一度は行きたいサウナ”として聖地化されているのが、静岡の「サウナしきじ」だ。
サウナにハマっていない人にしてみれば、その外観から、聖地と呼ばれるほどの魅力をうかがい知るのは難しいだろう。けれど、サウナ好きにしてみれば、なんとも落ち着く昭和の風情や、田舎のおばあちゃんちを訪れたときのような安心感が、“ととのい”への近道にも思えてくるのだ。
しきじの大きな魅力は、駿河の美しい自然の中で育まれた天然水にある。水風呂などで使われている天然水は、肌にすっと馴染み、やわらかに染みわたっていく。また、カルシウムやマグネシウムといったミネラル分も豊富に含まれ、そのまま飲料水として飲むこともできるし、持ち帰ることまでできる。
フィンランド式サウナとガラス越しにつながる薬草サウナでは、床から立ち昇る熱い蒸気と薬草の香りが混ざり合い、なんともいえない恍惚感を覚えるだろう。そして、ちょっとした滝行気分も味わえる水風呂との間を何度か往復すれば、ととのいの時はもうすぐだ。
今回もしっかりととのい、日付が変わるぐらいの時間まで仮眠をむさぼった後、日本一大きな湖へとプジョーを走らせた。
水風呂の中に豪快に流れ落ちる滝の音が、頭の中の雑念をかき消してくれる。無我の境地にもたとえられる“ととのう”とは、平たく言えば、「何もかもがどうでもよくなるくらい、最高に気持ちいい」状態だ。
今回の“サ飯(サウナ飯)”は、長旅に向けたパワーをチャージするべく「白もつガーリック丼」をセレクト。次回は、しきじの娘こと笹野美紀恵さんのオススメである「生姜焼き」もしくは「冷麺」を食してみたい。
しきじから琵琶湖周辺までは、約279kmの道のり。自分のコンディションさえととのっていれば、交通量が少ない深夜の高速道路は至極快適だ。おまけに割引料金も適用されるから、浮いた分を旅の軍資金に充当できる。
深夜にクルマを走らせるのは、いつ以来のことだろうか。近年はスキーやスノーボードに行く時でも、ここまで極端な時間に出発することは皆無だ。オーディオを消し、MICHELIN PRIMACY 4+のささやくようなインフォメーションに集中しながらドライブしていると、仲間や彼女と日の出を目指したり、どこへ向かうでもなくクルマを走らせたりした、若かりし日々の情景がやけに鮮明に蘇ってくる。
日の出の少し前に、琵琶湖のほとりにクルマを停める。エンジンを切ると、あたりは静寂に包まれ、打ち寄せる小波の音だけが静かに耳へと届いてくる。
太陽の存在を感じる頃になると、空はやわらかなピンクで染まり、徐々にオレンジへと変化していく。ドラマチックな朝の始まりは、非日常的な1日を予感させるに十分だ。
日本一大きな湖である琵琶湖は、約440万年前に形成されたという古代湖で、面積は669.26平方km、周囲長は235.2km。その圧倒的なスケールは、湖というよりも海を想わせるほどだ。
様々な表情を浮かべる空に魅せられながら、夢中でシャッターを切っていると、すっかり陽が昇っていた。「時間を忘れさせる」とは、まさにこのことだ。
腹ごしらえを済ませた後は、異なる視点から琵琶湖を眺めてみようと考えた。琵琶湖周辺には、SNSで人気の映えスポット「びわ湖テラス」や湖に鳥居がある「白髭神社」、クルーズ船「ミシガン」といった多彩なスポットが揃っているが、今回は少し渋めに「坂本ケーブル」をチョイスした。
その理由は、架線レス化し、麓駅と山頂駅の停車時に充電する、EVのような運行スタイルに興味が湧いたこと。また、(これは乗車後に知った事実だが、)それぞれ「縁」「福」を名乗るヨーロピアン調の車両も、実に縁起がいい。
比叡山延暦寺への表参道として敷設された坂本ケーブルは、ケーブルカーとして日本一長い全長2,025mを誇り、麓と山頂の標高差は484m。大正ロマンを漂わせる麓の「ケーブル坂本駅」から、7カ所の橋梁や2カ所のトンネル、中間駅を経て、山頂の「ケーブル延暦寺駅」まで約11分間の道程を進む。カーブが連続しているのは、神聖な社殿を見下ろさないようにという配慮からだという。
旅情をそそる車窓から、眼下に広がる街並みや琵琶湖を眺めていると、なぜか少年時代によく乗ったバスの風景を思い出した。運転手の真後ろに陣取ったり、降車ボタンをやたらと押したがったり……。物事を色眼鏡で見ることのない、あの頃のピュアな気持ちを少し取り戻したところで、再びプジョーとの旅に戻ろう。
天台宗・最澄が開山した霊峰・比叡山延暦寺へと向かう坂本ケーブルは、30分間隔で運行。1925年(大正14年)に建造された駅舎は、1997年に国の登録有形文化財として認定されている。
山頂駅の見晴らし台からは、琵琶湖のもっとも狭まった地点を結ぶ「びわ湖大橋」をはじめ、琵琶湖最大の島である「沖島」や、神が住む島と言われる無人島の「竹生島」などを望むことができる。
【vol.02 神戸~瀬戸大橋~今治編】を読む
【vol.03 佐田岬~大分~宮崎~熊本編】を読む
2017年1月に新車で購入し、5万5,000km以上を共にした愛車の「プジョー308 SW Allure BlueHDi」は、1.6Lの直4ディーゼルターボ+6速ATを搭載。運転支援システムは現在のスタンダードと比べると脆弱だが、自然体でプレーンなスタイルやストレスフリーな走りが気に入っている。この区間の走行距離は835kmで、メーター表示の燃費は18.8km/Lだった。
2023年12月21日掲載(取材日:2023年7月30日~31日)
※掲載内容は取材時の情報です。