たまには慌ただしい日常から離れ、ゆっくりと時間が流れる静かな環境に身を置いてリフレッシュ。
首都圏から160km、俗世間から離れた山中の宿坊へ、いざ出発!
コロナ禍で外に出る機会がめっきり減った。毎日同じ仕事部屋の椅子に座り、同じ姿勢をとり続ける。変化するのは画面の中だけ。リモートワークのおかげで仕事は何とかこなせているが、どこかこの「新しい日常」に物足りなさを感じる瞬間がある。そんな方も多いのではないだろうか。
足りないのは「体験」なのかもしれない。外出はできるだけ自粛し、人と会うのを極力避け、買い物もオンラインで済ませる。確かにそれでも不自由なく暮らせているが、何かが足りない。そこで、思い切ってまったく違う環境に身を置いてみることにした。忙しい日常とは対極にある、シンプルな世界。お寺だ。
※「ミシュランガイド」掲載飲食店/宿泊施設(赤字)と外国人観光ガイド「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」掲載地(緑字)が全てイラスト上に記載されているわけではありません。
そんなテーマで選んだ目的地は、南アルプスの麓、山梨県身延町にある宿坊、「端場坊」(はばのぼう)だ。まるで俗世界から切り離されたかのように山に囲まれた一帯にたくさんのお寺や宿坊が点在する。東京からおよそ160kmという距離も、1泊2日で訪れるには程よい距離だ。
旅の相棒に選んだのは、カワサキのZ900RS CAFE。最新のテクノロジーを詰め込みながらも、クラシカルなカフェレーサーの雰囲気をまとったスポーツバイクとして、高い人気を集めている。装着したタイヤは、走りの楽しさと安心感を両立したスポーツタイヤのMICHELIN POWER 5(ミシュランパワーファイブ)。首都圏から目的地までは、美しい景色とワインディングロードを楽しめる、魅力的なツーリングルート。今回のバイクとタイヤなら旅の道中をたっぷり楽しませてくれるだろう。もちろん車でのドライブにもおすすめだ。
極上のおにぎりを手に、西を目指す
浅草の老舗おにぎり店「おにぎり浅草宿六」
カウンターには日本各地から取り寄せるこだわりの具材が並ぶ
店内で食べるほか、テイクアウトもできる
旅の出発点は、『ミシュランガイド東京2020』のビブグルマンに初掲載され、『ミシュランガイド東京2021』にも掲載の「おにぎり浅草宿六」だ。厳選された具材を羽釜で炊き上げた極上のごはんでふわっと握り、香り高い江戸前の海苔で包んで食べさせてくれる。3代目店主の三浦洋介さんは「おにぎりは誰でも作れますから」と謙遜するが、この上なくシンプルな「おにぎり」という料理だからこそ、このレベルに高めるまでには多くの努力があっただろう。そんなことを考えながら、2個のおにぎりを受け取る。この場で食べたい気持ちを抑えつつ、今回はテイクアウトに。
おにぎり浅草宿六
「ミシュランガイド東京2021」版に掲載
住所:東京都台東区浅草3-9-10
TEL:03-3874-1615
Web:公式サイト
※ミシュランガイドはお店で提供されるお料理を評価しています
浅草から首都高に乗り、中央道で一路西を目指す。河口湖ICで降りたら、ちょっと周辺を走ってみる。このエリアにはミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで3つ星を獲得した久保田一竹美術館、2つ星の河口湖ミューズ館をはじめとして、魅力的な観光スポットがたくさんある。ガイドを片手に、そんなスポットを巡ってみるのも楽しい。
河口湖を楽しんだら、身延山に向かって出発。日本が誇る世界遺産でありミシュラングリーンガイドに掲載されている富士山を眺めながら美しい樹海の間を走り、ちょっとしたワインディングロードを経て身延に抜けるルート。途中、見晴らしのいい場所を見つけたら、そこでおにぎりを食べようという計画だ。
西湖にて。ライダーの意志を忠実に反映してくれるZ900RS CAFEは、どこを走っても楽しい
Z900RS CAFEは本当に楽しいバイクだ。低回転からトルクがあるから、街乗りから高速道路まで、あらゆるシチュエーションで気持ちよく走ることができる。そしてスロットルを開ければ4気筒らしい心地よいサウンドがライダーを包み込み、充実感で満たしてくれる。
そんなバイクの特性をさらに引き出すのが、今回装着したスポーツタイヤ、MICHELIN POWER 5だ。ミシュランらしくしなやかな乗り心地は、高速道路の疲労を最小限に抑えてくれる。そしてワインディングに入ると本領発揮。バイクを寝かせてからコーナーを抜けるまで、一貫して「しっかり路面をつかんでいますよ」というメッセージが伝わってくる。この安心感こそミシュランタイヤに共通する美点だろう。今回は晴天に恵まれたが、ウェット路面でも抜群のグリップを発揮してくれる。スポーツライディングを楽しみたいすべてのライダーにおすすめできるタイヤだ。
河口湖から身延山までは、樹海や湖畔を走る気持ちのいいワインディングが続く
ジャケット:カワサキ x KADOYA ライディングライダース ATLAS -Special Edition-
パンツ:カワサキ ライダージーンズ CORDURA ®
グローブ:カワサキ パンチングフィットグローブ BPS
美しい景色の中を夢中で走るうちに、本栖湖に到着。湖のほとりにバイクを止め、遅めのランチをとることにする。草むらに腰を下ろし、ときどき雲の向こうに姿を見せる富士山を眺めながらおにぎりを頬張ると、少し懐かしいような気持ちになった。考えてみれば、こんなに開放感のある食事も久しぶりだ。
MICHELIN POWER 5はインフォメーションが豊富でワインディングでも安心感が高い
おにぎりの形はちょうど富士山のようだ
本栖湖を出て「甲州いろは坂」の別名を持つワインディングロードを下り、富士川を渡ると、いよいよ身延山はすぐそこだ。入り口にある「総門」を入ると、その先は俗世間とは隔てられた別世界。門前町を抜けると日蓮聖人ゆかりのお寺が立ち並び、静かでゆったりとした時間が流れている。ここでは騒がしい街の音や、目を刺すような夜のコンビニの光とは無縁だ。
身延山の入り口、総門。この先は神聖な仏様の世界だ
「お寺ならでは」の宿泊体験
日蓮宗は、鎌倉時代中期に日蓮聖人によって開かれた。千葉に生まれ、法華経に身を捧げた日蓮聖人は1274年、身延山に入山し草庵を構えた。それ以来、身延山一帯は日蓮宗の聖地となっている。身延山では総本山の久遠寺を本院とし、それを支える32の支院(お寺)は「坊」と呼ばれている。端場坊は、そんな「坊」のひとつで、文字通り、身延山の東の「端」にある。日蓮聖人の熱烈な信徒で医者でもあった四条金吾頼基公によって鎌倉時代に開かれたお寺で、約740年もの歴史を持つ。
身延山の東端に位置する端場坊
740年もの歴史を持つ由緒正しき宿坊
ご住職の林是乾さんは、バイクを愛するライダーでもある
そんな端場坊に到着すると、ご住職の林是乾さんが出迎えてくれた。初めての宿坊体験ということで少し不安もあったが、笑顔を絶やさず対応してくれるご住職のおかげで、すぐに緊張もほぐれた。
部屋は畳敷きで、障子と襖で仕切られた昔ながらの和室。最小限の調度品だけが置かれており、テレビやラジオなどホテルの部屋の定番アイテムは見当たらない。ご住職によると、これは「お寺に泊まる」体験を最大限に味わってもらうための配慮。よく「断捨離」と言われるように、余分なものを削ぎ落としていくのが仏教の考え方。できるだけシンプルでミニマムな環境に身を置くことで、「あれが欲しいな」「これが足りない」という自分の「欲」に気づくことができる。宿坊に泊まることを「参籠(さんろう)」と呼ぶが、これも修行のひとつなのだ。
とはいえ生活必需品まで削ぎ落としているわけではなく、清潔な洗面所には十分なアメニティもあるし、広々とした多目的スペースには自由に飲めるコーヒーが用意されている。気持ちよく過ごすための気配りが隅々まで行き届いていて、心地よい時間を過ごすことができた。
余計なものがない、シンプルな部屋はご住職のこだわりのひとつ
シンプルだがセンスのいい空間
隅々まで心が配られていて心地よい
洗面所の前は日の光が差し込む中庭
自分と向き合える、ぜいたくな時間
実は端場坊は、お寺をテレワークスペースとして使える「お寺ワーク」というプランを用意している。施設内には無料のWi-Fiが用意され、電源完備のデスクも用意されている。静かな環境で仕事に集中することができるのも魅力のひとつだ。
「せっかくなので一番お寺らしい場所を」とご住職に案内していただいたのは、なんと本堂の中。当日の宿泊客は自分一人だったこともあり、正面に鎮座する日蓮聖人の視線の先にデスクを置かせていただき、そのまなざしを感じながら、仕事に取りかかることにした。
広い本堂にいるのは自分一人、聞こえてくるのはセミの声だけ、というぜいたくな環境で、何にも邪魔をされず思う存分思考を巡らすことができる。ふと目を上げると日蓮聖人とたくさんの仏様がじっとこちらを見ていらっしゃるから、雑念や誘惑に負けることもなく、集中力が続く。やはり「お寺ワーク」の中でも本堂での仕事は人気とのことで、「ここで会議をすれば、欲をかいたり、邪(よこしま)な意見が出たりすることもないでしょう」とご住職は笑う。
本堂で日蓮聖人に見つめられながら仕事に励む
他にも各所にくつろいだり仕事ができるスペースが設けられている
大広間は大人数の会議もできそうなほど広い
ひとしきり集中した後は、夕勤(ゆうごん)と呼ばれる夕方のお勤めの時間だ。本堂でご住職のお経や法話を聞くことができる。実は宿坊の中でも、お勤めをしてくれるところは多くない。だが端場坊ではご住職のご都合の許す限りお勤めをしてくれるそうだ。
夕方の本堂は昼間とは異なる趣を見せてくれる (画像:公式サイトより)
出汁にいたるまで植物性の素材を使った精進料理。それぞれ工夫が凝らされていて美味
夕食は、出汁にいたるまで動物性の素材は一切使わない、精進料理だ。最近は宿坊でも肉や魚が出るのが一般的だが、端場坊では「お寺ならではの体験」にこだわり、手間暇をかけて植物性の素材のみを使った料理を提供している。出発前は「精進料理で満腹になるのか」という不安もあったが、それは杞憂に終わった。濃厚な湯葉、まるで角煮のような車麩、野菜の天ぷら、お漬物など、どれもおいしく夢中で食べ進めるうち、すっかり満腹に。「肉を使わない」という制約の中で工夫が凝らされた精進料理の奥深さに驚いた。幸せな満腹感と心地よい疲れに包まれ、この日は早々に就寝した。
久遠寺で迫力ある朝勤を体験
お寺の朝は早い。翌朝は4:30に起床し、身支度をして玄関へ向かった。日蓮宗総本山、久遠寺の朝のお勤めに参加するためだ。まだ薄暗い中、ご住職が持つ明かりを頼りに、久遠寺まで歩く。
鐘つきのダイナミックな所作は一見の価値あり
久遠寺の本堂。ここで朝勤が執り行われる
大太鼓の音にのせた読経は圧巻
久遠寺では毎朝午前5時きっかりに、大鐘が鳴らされる。若いお上人が全身を使って巨大な橦木(しゅもく)を引くダイナミックな所作に思わず見入ってしまう。続いて1,500人を収容できるという広大な久遠寺の本堂で朝勤(ちょうごん)が始まった。巨大な大太鼓の音にのせ、数十人のお上人が声を合わせて「南無妙法蓮華経」と唱える姿は圧巻で、体中がしびれるような迫力がある。在宅ではなかなか味わえない「人の力」を、五感でたっぷりと味わうことができた。 参拝者は自発的にマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを保っていた。
三門から久遠寺の本堂へと続く階段は287段、高低差は104メートルもある
西谷にある御草庵跡。日蓮聖人が庵を構えた身延山久遠寺発祥の地だ
日蓮宗 総本山 身延山 久遠寺
住所:山梨県南巨摩郡身延町身延3567
TEL:0556-62-1011
Web:公式サイト
新型コロナウイルス感染症の対策として下記を実施しております
- 各所に消毒液を配備
- 受付には飛沫防止のパーテーションを設置
- 当寺の職員、修行学生のマスク着用
- 戸を開放しての換気
端場坊に戻ったら朝食の時間だ。もちろん植物性にこだわったメニュー。朝のお勤めを終えた後の空腹に、やさしい野菜の味がしみわたる。朝食後は写経を体験した。毛筆で「妙法蓮華経」の一部をなぞり書きしていくのだが、これも修行のひとつ。「うまく書きたい、という気持ちもひとつの欲。あらゆる欲や雑念を捨て去って、ひたすら無心で写経するのがポイントです」とご住職からアドバイスを受け、目の前の文字に集中しながら写経に没頭する。すると不思議と気持ちがすっきりと落ち着き、30分近い時間があっという間に過ぎていった。
朝勤の後、朝食をいただく。動物性素材を一切使わないメニューが体にうれしい
端場坊の本堂で写経を体験
ひたすら文字を書いていくことで無心になっていく
忙しく過ぎる日常を離れ、シンプルな生活を体験させてくれた端場坊。端場坊の「端(はじ)」には、「はじまり」の意味もある、とご住職は言う。身延山で感じたことを忘れずに、新たな日常を始めよう。そんなことを考えながら帰路についた。
2020年9月18日掲載(取材日:2020年8月21日)
※記載の内容は掲載時点の情報です。(ミシュランガイド公式リストbyクラブミシュランは、現在、終了しております。)
※全世界のミシュランガイドセレクション(レストラン・ホテル)の閲覧・検索はミシュランガイド公式ウェブサイトをご利用ください。
※グリーンガイドの情報は『グリーン・ガイド・ジャパン改訂第6版』のものです。
今回のバイク
Z900RS CAFE
往年の名車Z1からインスピレーションを受けたクラシカルな雰囲気を漂わせるレトロスポーツ。カウルやホイールからボルト類までこだわり抜かれたデザインと、最新のテクノロジーによる走りが共存する。
ヨガができる宿坊
岐阜県・飛騨高山にある浄土宗のお寺、善光寺ではヨガ体験もできます。
https://oterastay.com/stay/zenkoji
ライター
出雲井 亨 Toru IZUMOI
ライター・編集者
カメラマン
Takuya SAKAWAKI
フォトグラファー