
グリップ力が欲しい時、タイヤの空気圧は下げた方が良いの?
オートバイシリーズ「タイヤを知るとバイクはもっと楽しくなる」vol.1
タイヤと空気圧の関係が密接なのは、皆さんご存知の通り。どのバイクにも規定の空気圧が設定されており、例えばホンダのCB1300シリーズは、フロント250kpa(2.5bar)、リヤ290kpa(2.9bar)、スズキのハヤブサは前後290kpa(2.9bar)に設定されています。
これは一般公道のさまざまな路面状況や、タンデム走行などの用途を考慮した数値です。特に海外では日本より速度レンジが高く、ドイツのアウトバーンはいまだに速度無制限区間があります。また大柄な方がタンデムをしたり、重たい荷物を積載したまま大きなパワーがかかることも考慮。さらに一般公道では大きな穴や段差に遭遇することもあり、一瞬とはいえタイヤに大きな衝撃が加わることが想定されるので、車両ごとに指定空気圧が設定されているのです。
ただし、走行条件が変われば空気圧は変わります。ミシュランではもちろん一般公道では車両指定空気圧の厳守を推奨していますが、タイヤの銘柄によってはサーキット走行での推奨空気圧を設定しています。
例えばMICHELIN POWER CUP2(以下:パワーカップ2)は、サーキットでは冷間時フロントは210kpa(2.1bar)、リヤ150kpa(1.5bar)を推奨。これはサーキットではタンデム走行をしないし、路面は大きなギャップがなく比較的平坦で、連続した高速走行を行わないという走行条件があるからです。そしてタイヤへの負荷が高いため、一般公道よりもタイヤの温度が上がってタイヤの内圧が上昇することも想定しています。
仮に車両指定空気圧の前後290kpa(2.9bar)のままサーキットを走行して、一般道よりも激しいブレーキングや加速をすると内圧が上がり過ぎてしまうのは、容易に想像できると思います。タイヤの空気圧は低すぎても高すぎてもダメなのです。
ほとんどのバイクの車体(主にスイングアーム)には車両指定空気圧を表記したステッカーが貼ってあります。一般公道ではこの数値を守りましょう。
(1) 空気圧は冷間時(最初の走行の直前またはタイヤウォーマーを取り付ける直前)に調整してください。
(2) ミシュランが推奨するタイヤウォーマーの温度設定は90℃です。
(3) ここに記載した空気圧はサーキット走行を想定したものです。一般公道を走行する場合は車両メーカーの推奨空気圧に従ってください。一般公道での使用を認められたサーキット走行用タイヤ、 あるいはサーキット走行にも対応した一般公道用タイヤでサーキットを走行後、一般公道を走行する場合には必ず適正空気圧に戻してください。
ミシュランのタイヤラインナップの中でサーキット走行を想定したモデルは、それぞれ、サーキット推奨空気圧を設定しています。
走行会やイベントによってはミシュランのテントも出展しています。ミシュランのスタッフに空気圧の相談をしてみましょう。
2016年からミシュランがオフィシャルタイヤサプライヤーを務める2輪レース世界選手権最高峰クラスのMotoGP。タイヤの管理はとても厳格で、ミシュランのタイヤテクニシャンたちは路面温度やタイヤの温度を頻繁に確認してチーム側に的確なアドバイスをします。また一方でスプリントレースでは最低30%以上、決勝レースは最低50%以上の距離を、温間での最低内圧(フロント190kpa(1.9bar)、リヤ170kpa(1.7bar)を上回った状態で走行しなければならないというレギュレーション(レース規定)があります。これはミシュランはじめ主催者側と合意した“ライダーとレース運営の安全性を最優先”とするタイヤに関する重要な規則です。
構造的には確かに空気圧を下げるとタイヤがたわみ、接地面積を確保できます。サーキットではその特性を利用して、タイヤが路面を掴む力を増やすことができるというわけです。
そんな話を聞くと、「ワインディングでも空気圧を下げるとタイヤのグリップを確保できるでは……」と思うのがライダーの心情ですよね。でもこの考えを一般道に当てはめるのはとても危険です。
例えばタイヤの空気圧が適正より低い状態で高速道路を走ったとしましょう。空気圧の低いタイヤは変形しやすく、直線では膨らもうとする力が強くかかります。結果、路面との摩擦が増えて必要以上に発熱、内部構造の破壊や異常摩耗促進の原因にもなります。だから一般公道では車両指定空気圧で走行する必要があるのです。車両指定空気圧にすることで、構造破壊のリスクや偏摩耗も抑えられ、さらに燃費も向上、ハンドリングの安定感や軽快感も得ることができます。
つまり、高速道路走行時とコーナリングが連続するサーキットではタイヤにかかる負荷の種類がまるで異なるということなのです。
サーキットは一瞬の最高速はあっても連続して高速走行するシチュエーションはありません。一般公道の高速道路における最高速度域での連続走行はタイヤに負担がかかるシチュエーション。したがって、走行前は必ず空気圧をチェックするようにしてください。
タイヤはトレッド面のコンパウンドやカーカスと呼ばれる内部に使われる部材や構造のバランスにより、グリップや直進安定性、耐摩耗性やライフなどすべての機能を発揮しています。
例えばカーカスと呼ばれる部材は、走行時タイヤが遠心力のより過度に膨張・変形しないように剛性を確保しています。一方で空気と部材特製を活かして柔軟性を保つことで路面からの衝撃やライダーとバイクが与えた荷重を吸収する重要な働きを持っています。
バイクの性能向上に合わせて速度レンジが上がり、このカーカスを使う技術もどんどん向上していきました。重ねる枚数や配置位置を変えることで強度やしなやかさを調整する技術が生まれ、現在もその研究と開発が続いています。この特性を向上させるためにミシュランでもさまざまな部材と構造設計を試し、タイヤのキャラクターによって使い分けているのです。
例えばミシュランは、MICHELIN ROAD6(ロード6)とMICHELIN ROAD 6GT(ロード6ジーティー)という、ほとんど見た目が同じタイヤをラインナップしていますが、これらの違いはどこにあるのでしょうか。重量車を想定したGTカテゴリーはリヤタイヤの内部構造を変更し、特性を変えているのです。
この設計を性能としてきちんと発揮させるためにも空気圧の設定はとても重要です。空気圧が低すぎると性能を発揮できないばかりか、その状態でフル加速を繰り返したりするとタイヤ内部が過剰に揉まれて発熱して内部剥離するなどダメージを与えてしまうこともあります。また、大きなギャップに乗ってしまった場合、ホイールに大きなダメージを与えてしまう危険性があるかもしれません。
上記のようにタイヤと空気圧の関係はそれだけ密接ですし、タイヤの空気圧は時間の経過とともに自然に低下します。定期的な空気圧チェックを行うことで充実したバイクライフを送りましょう。
タイヤメーカーが心血を注ぐ内部構造の開発。ミシュランは昔から様々な部材や設計を試して、タイヤ性能の向上を追求しています。
ロード6(左)とロード6GT(右)は、ほとんど同じパターンですが、中身は別物。リヤタイヤに1枚カーカスを追加することで、重量車向けに対応しているのです
ロード6(左)とロード6GT(右)のリヤタイヤの内部構造の違いを見てみましょう。ロード6はポリエステルプライ×1(青)+アラミドプライ×1を使用し、ロード6GTはそこにポリエステルプライ(緑)をプラス。重量車に荷物を積載し、タンデムで快適なロングツーリングをする際に必要な剛性と安定性を確保しています。
文/小川勤
2024年9月13日掲載
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