
ミシュランはなぜMotoGPに参戦しているのでしょうか?
オートバイシリーズ「タイヤを知るとバイクはもっと楽しくなる」vol.2
ミシュランは世界最高峰のレースに50年参戦を続け、500回以上の勝利を獲得しています。そして、レースを通じてラジアルタイヤやマルチコンパウンド・テクノロジーなど、モーターサイクルレースに革命をもたらすイノベーションを次々と生み出してきたのです。ミシュランはイノベーションを生み出す最上位のラボとして、常にレースに取り組んでいます。
MotoGPマシンの開発スピードはとても早く、マシンが進化すれば、当然タイヤへの要求レベルも上がります。ミシュランは二輪、四輪を問わず、タイヤは車両のパフォーマンスを最大化する部品として考えているため、その要求に応えるべくタイヤを開発しているのです。今シーズも多くのサーキットで更新されているラップタイムがそれを証明しています。
ミシュランマンが右手に持っているのがMotoGP用のタイヤで左手に持っているのがMotoE用のタイヤです。
左がMotoGPで右がMotoE。MotoGPは各メーカーのプロトタイプ、MotoEはドゥカティの全電動バイクであるV21Lのワンメイクで、ミシュランのサステナブルタイヤを使用。2クラスのタイヤサプライヤーとなることで、ミシュランは革新的技術を追求しています。またミシュランは、MotoEタイヤの技術を数年のうちにMotoGPにフィードバックするともに将来の市販用タイヤに転用することを公言しています。
もちろん、これからも勝利を積み重ね、新しいテクノロジーを生み出していきますが、MotoGPにおけるイノベーションの次のステージは、タイヤの性能やそのライフサイクル全体を犠牲にすることなく、再生可能素材やリサイクル素材をタイヤに採り入れることです。
そのためにミシュランは新たなるタイヤ開発の場として、全電動バイクで争われるMotoEの選手権に2019年からオフィシャルサプライヤーとしてタイヤを供給。MotoEでは、再生可能およびリサイクル素材を平均 50%以上(フロント 49%、リア 53%)含んだタイヤを使用しています。
ミシュランは2030年までに40%、2050年までにタイヤを100%持続可能材料にする、という目標に持っています。これはタイヤというプロダクトに関しては、二輪や四輪、トラックやバス、産業用などを含めたすべてに当てはまる壮大なプロジェクトで、要求レベルが高く、開発スピードが求められるレースという環境で技術を蓄積しているのです。
サステナブルタイヤの実践投入としては、ミシュランの中で最も進んでいるのがMotoEです。再生可能およびリサイクル素材は、主に天然ゴムや柑橘類の皮、もみ殻から抽出したシリカ、松脂、リサイクルされたカーボンブラックやスチールなどです。ちなみに2023年はフロント:34%、リア:52%でした。
MotoE タイヤは、今シーズンから2017年に発表されたコンセプトタイヤ「VISION」のデザインを採用。VISIONはトレッドを3Dプリンターで再生、コネクテッドでエアレスなサスティナブルタイヤ。そのコンセプトをイメージするデザインをMotoEタイヤのトレッド部に採用し、MotoEタイヤがVISIONのライン上にいることを証明しているのです。ちなみにこの模様は数周で消えます。
どんなに優秀なライダーでも、タイヤの性能以上で走ることはできません。特にレーシングマシンはタイヤへの依存度がとても高いため、ミシュランはそのサーキットに合わせた専用スペックのタイヤを用意。チームやライダーからの要望、天候や左右カーブの数などを踏まえ、前年のデータをベースにタイヤを開発します。
マシンのセッティングと言ってもその中にはサスペンションやエンジン、車体や電子制御、さらに空力デバイスだけでなく、タイヤの選択も含まれています。ドライ路面用にハード、ミディアム、ソフトのコンパウンドがあり、さらにはレインタイヤも用意。その数は、MotoGPだけで1レースで約1100本になります。毎戦1100本、全20戦なので年間約2万2000本のタイヤを世界各国に運んでいるのです。
ミシュランは、毎戦10トン以上の荷物を、船便と空便で運びます。このロジスティックの手配も重要で、ミシュランの大きな責務の一つとして、そのレースにタイヤを間に合わせるということがあります。
毎戦1100本ものタイヤが各グランプリに持ち込まれます。ただ、レーシングタイヤは年々レンジが広がっており、それが使用本数の軽減に繋がっています。ミシュランは、レンジを広げつつポテンシャルを向上させるチャレンジを続けているのです。
1100本というと大きな荷物になりますが、以前のレースと比較するとかなり本数は減っています。ライダー専用タイヤをつくっていた頃は1戦に2000本近くを投入していたこともありました。
しかし、近年は使用本数に関してもサステナブル方向にシフト。現在のMotoGPは、そのウィークによって使えるタイヤの本数を制限。各ライダーは、フロントは10本、リアは12本のタイヤを使うことができます。2023年シーズンまでリアは3種類から選べましたが今年は2種類になっています。ちなみにレインタイヤは、フロントは6本、リアを7本使うことができます。
こういったレギュレーションによりタイヤの本数が減り、当然ですがそれは使用材料の減少、さらには輸送時のCO2排出量やリサイクルコストの軽減などにも直結します。だからといって性能やラップタイムを落とすわけにはいかないのが難しいところです。ここがミシュランの技術力の見せ所になります。
各ホイールにはTPMS(Tire Pressure Monitoring System)を装着。車両側にもセンサーを取り付け、常に空気圧をチェックしています。
現代のMotoGPマシンはすべてプロトタイプ。排気量は1000ccでパワーは240HP以上、重量は157kg、燃料は22リットル使うことができます。タイヤサイズはフロントが12/60-17、リアが20/69-17で、前後とも17インチを採用します。17インチを採用するのは市販タイヤへ技術をフィードバックしやすくするためです。
空気圧は、フロントが1.8bar、リアが1.68bar(レインはフロントが2.0bar、リアが1.7 bar)、ちなみにタイヤの最大温度はフロントが100℃、リヤが120℃になります。ゴムが高温になってもタイヤのパフォーマンスを発揮させ続けることは簡単なことではありません。
各グランプリにはミシュランスタッフが帯同します。
レーシングタイヤにとってタイヤや路面の温度はシビアです。そのため、同じグランプリでも開催時期が変わるとタイヤのコンパウンドや内部構造は変わるのです。
タイヤテクニシャンがオリジナルのアプリである『Tire watch』を使って、各ライダーがどのタイヤを選択しているかを確認。各タイヤの内圧や温度は常に管理&検索でき、レギュレーションで定められている最低内圧もチェックし、公平性と安全性を確保しています。
また、MotoGPにはミシュランのスタッフも同行します。マネージャー1名、タイヤテクニシャン6名、デザイナー(開発者)2名、フィッター10名、MotoE業務兼任のコーディネーター1名、プレスオフィサー2名、マーケティングコミュニケーター2名となっていますが、こちらも昔よりも人数が減っています。
これはタイヤのレンジが広くなってきたことと、使い方がシンプルになったこと、さらに通信機器の投入などにより情報共有がしやすくなったためです。全てのタイヤは、使用状況がデータとして共有され、開発に活かされているのです。近年のMotoGPシーンでミシュランスタッフの多くが様々な機器を持ち歩いているのは、情報共有のためなのです。
2016年からスタートしたMotoGPプロジェクトにより、ミシュランは多くの経験とデータを蓄積してきました。グリップを最後まで維持すること、それは安全性に繋がり、さらにはサスティナブル性能にも繋がるのです。日本GPでは是非とも昨年よりも進化したミシュランを見ていただきたいと思います。
日本GPでは、日本初となるMotoEタイヤの展示も行う予定です!VISIONデザインにぜひ触れてみてください。
10月4日から6日の期間で、モビリティリゾートもてぎで開催される日本GPのミシュランブースでは様々なイベント開催します。それでは日本GPでお会いしましょう!
2024年10月2日掲載
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